パターン・ランダムネス - 音楽と繰返しについて
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音楽のなかには、規則と不規則の関係、持続と変化、繰返し(リピート)や繰返さない(1回限り)などといった性質が昔から抜き差しがたくあって、こういった性質が全く関係しない音楽というのを想像することはなかなか難しいと思う。
繰返しというのは、譜面ではリピート記号であらわされて、1番のあとに2番が続くとか、サビを繰り返すとかいったことがあるけれども、それ以外にも、リズムやリフ、拍子、コード循環など、あるひとつの音楽のなかで「繰返し」の要素は非常に多いことに。
パターンというのは繰返しから生まれるということもあって、あるひとつの形がパターン化されるとは、視覚的には下図のようなことになると思う。
同じ図柄が縦横にたくさん並んでいるけれども、ミニマリズムの考えが浸透してからの音楽では、こういった「小さな(短い)同じ形が繰返される」ような形式は珍しくはなくなったと思う。もともと繰返しの要素が多い音楽のなかに、リズム・パターンの反復や短いリフなどがあることは自然だった。それでも人が演奏すれば「まったく同じ反復」というのはあり得なかったわけだけど、ドラム・ボックスやサンプラーなどが出てきてからは正確な反復ということが非常に容易につくれるようになって、短いパターンが繰返される形式の音楽が広まる後押しをしたのだろうとは思う。いまや、ヒップホップやテクノ系の音楽ではなじみが深いものに。
2種類の図柄を使ったものでも、配列に何らかの規則性があればパターン化されてくる。
音楽には「繰返さない」箇所も当然あって、歌ものの間奏などで即興的なギター・ソロが鳴っている場合などはランダムネスな感じがするし、また、意図的に「繰返し」の要素をなくしたような音楽というのもあり、クラシックでは、スクリャービンの「プロメテウス」や新ウィーン学派の音楽などが、20世紀の初め頃からあらわれてくる。偶然性の音楽や、複雑な現代音楽なども繰り返しがないものが多い。テクノ系では、フライング・ロータスの「コスモグランマ」(2010年)などが、すでにミニマリズムが席巻した後になってから、繰返しをなくしたような曲形式となっていて異色だと思った。
単調な反復は「機械的」と形容されてきたのかもしれないけれども、昨今のAIがつくる音楽などでは「機械にしかできない人間的な即興」と感じられるような演奏も聴かれるようになってきて、何が人間的で何が機械的なのかという観点は、AIの時代になると、これまでより複雑に入り組んでくるんじゃないかという気もする。
あと、パターン・ランダムネスということでは、「ロジスティック写像」という、アバウトに上図のようなものなのだけど、定常、周期、カオスの3つの状態があり、カオスは非線形的な振舞いをするというこの図が、なんとなく音楽に応用できそうで、前から気になっているものだったりする。
(2020年9月29日)